お知らせ
鍜治屋。
「… … … 今の御仁は 確か… … …」
「独国から参られたメッサー殿でござる 」
「おおっ 此れは柳刃殿 久しゅうござる 」
「此方(こちら)此其 出刃殿 お久しゅうござりまする 」
「あの御仁 やはりメッサー殿で御座ったか…」
「はい。」
「なれど 独国の御方ならば最後の言葉は グッドラック
では無うて… … … 」
「ビス バルト でごさりましょうな 」
「でござろう… … …
其れのみならず あの御仁己をナイフと呼べっ とも喚い
て居りましたが…」
「はっはっは 其の事でござりまするか
出刃殿は良い耳をお持ちでござる 某(それがし)察します
るに …
興味の無い方々には耳に当たりもせぬ事でござりましょう
が 我らの様な者に取りましては メッサーと申しますれば
其の後に続く語は…」
「シュミット。
… … … 其れが 嫌だと… … …」
「と 思われまする 」
「何故(なにゆえ)か 」
「スタイリッシュ 詰まり 粋では無い… のでは…」
メッサー シュミットが 」
「はい 恐らく 」
「なれど柳刃殿 」
「はい …おっしゃりたい事は判って居りまする
メッサーとは 包丁を含む刃物を意味し
シュミットとは 我らと同じ鍜治屋を意味する
語でござる 其れを嫌うとは いやはや何とも……」
「其れは違いまするぞ 柳刃殿
我が正本家は野鍜治の出 其方の有次家は刀鍜治
の出でござろう 我らと同位にしては成りませぬぞ」
「はっはっはっ 現在(いま)の有次家は刀を打って
は居りませぬ 出刃殿らしゅう御言葉でござりまする
な 其の御言葉 お褒めの御言葉と思うて有り難く頂
戴致しまする 」
「処で柳刃殿 」
「出刃殿 我らの御付き合いも長うござる そろそろ
十四郎(とうしろう)と 御呼び下され 」
「左様か 成らば其方も某(それがし)の事は亀之助 と
呼んで下され 」
「はっはっはっ 相承知 此れからも末長う御付き合い
よろしく御願い申し上げまする … … … で… 」
「うむ…独国から来られたは あの御仁御一人か…」
「 … あと 二人 居りまする…」
「 …都合三人…
其の者ら 何をしに参られた 」
「判りませぬ … 探りますか 」
「うむ … 決して気取られぬ様 くれぐれも
内密に 御願い申し上げる 」
「 御任せ下さりませ 」
言うなり 十四郎は踵を返しメッサーの後を追った 。