お知らせ
鍜治屋 … 其の弐
「ほおうっ … 他の二人は妻子とな、其の妻に
暴行を働こうとした男を斬ってし申たのだと。」
「はい、其の男は上役の息子だそうで。非は認め
るが跡継ぎを斬った事は赦せぬと、刺客を送られ
たそうにござる。」
「 … 其れで … 」
「其の折りは何とか凌いだものの、何時迄も防ぎ
切れるものでは無いと彼の国を後にしたそうにご
ざる。」
「其れで此の日本へ。」
「はい … 暫くは平和に暮らして居りましたが
此処最近何者かに張られて居る様で … と 。」
「成る程、其れで俺はナイフ と 。」
「はい。」
「なれど、張りし者らが追っ手ならば素性は知れて
し申たやも知れぬな。」
「はっ。」
「何とかしたいのか … 十四郎殿。」
「はぁ … 国は違えど、同じ鍜治屋の出なれば …
素性が知れたとあらば一刻を争います故 … 何と
か成らぬものかと … 。」
「ふむ … … 十四郎殿、刺客を撃退したとあらば
腕は立つのであろう。」
「はい、某(それがし)とは五分 … いや、以上やも
知れませぬ。」
「ほおうっ … 得意な技は。」
「引き技、特に肉の筋を引き切る技は右に出る者居り
ませぬ。」
「ふむ … 妻子らは。」
「はい、お二人も中々の腕前だそうで。
御内儀は菜っ切りを、御子息は皮剥きや飾り剥きを
得手として居る様でござる。」
「 … 肉の筋引きに菜っ切り … 皮剥きや飾り剥き
… 我らは魚捌きに其の仕上げ … ふむ … 」
「亀之助殿、何をお考えで。」
「うむ … 其方(そなた)、牛刀乃助(ぎゅうとうのすけ)殿を存じて居ろうか。」
「はい、畠山家の御重臣。」
「うむ、牛殿が申すには其の畠山家が近々一城を建て
るそうでの、此の亀之助を見込んで腕利きを集めて我が
元へ来ぬかと頼まれて居ったのだ。」
「しっ 仕官でござりまするか。」
「成らぬか。」
「いっ いえっ まっ真逆(まさか) わっ私(わたくし)の
様な者に しっ仕官の口が掛かろうなどと想うても居らぬ
事故(ことゆえ) … …」
「成らば決まりで良いな。」
「お待ち下され亀之助殿、あの家族も … 。」
「無論だ、異論か。」
「いえ、痛み入り申す。」
「気にせんでくれ、そうと決まれば一刻を争うのだあの家族
を迎えに行こう。」
「亀之助殿、其れは某(それがし)が。
で、どちらへお連れ致せば。」
「うむ、実を申さば御城は完城間近なのだ。
場所は井土ヶ谷でござる、其処へお連れし
て下され。」
「御城の御名は。」
「びすとろふうじん と申す
火偏に孚(ふ)と書いて人、ふうじん でござる。」
「 亀之助殿、びすとろ とは。」
「急げと言う意味と聞いたが良う知らん。
急げと申さば、十四郎殿。やはり儂も行く。
急ぎ参ろう。」
「はっ。」
⦅ … 想わぬ展開だ … 此の俺が侍とは …
今から腕が鳴る。
待って居れ びすとろふうじん。⦆
… 今から18年前の事であった …
… つづく のか …