お知らせ

2019 / 11 / 06  17:27

鍛冶屋 … 其の六

鍛冶屋 … 其の六

「では 怪しき者は見当たらぬと 」

「現在(いま)の処はな 」

「申し訳ござらぬ亀之助殿 」

「十四郎殿 其方(そなた)に責は無い

と申したばかりぞ 」

「しっ しかし 」

「案ずるな 怪しき者を入れてはし申

たが 其奴(そやつ)はもはや袋の鼠も同

じ 必ずや見つけ出してみせる 」

「なれど 其奴 暫くは動きますまい 」

「うむ … … 動くとすれば 」

「己への包囲を感じた時 」

「又は 」

「其奴の主が痺れを切らした時 」

「うむ 継(つな)ぎを取る可く 何かしら

仕掛けて来るであろうな 」

「はっ … … 亀之助殿 其奴の主とは

 一体 … … 」

「何処(どこ)の何奴(どやつ)でござりまする

 … … かっ 」

 声が途切れぬ内に 襖がさらりと開き

背は高く無いものの体躯のがしりとした

男が 酒瓶(さけがめ)を持って現れ

 二人の間にどしりと腰を下ろし様

 懐から三盞(さんせん)を取り出すや

 心地良い音と共に

 心地良い香りが辺りに漂う

 

「こっ 此れは 」

 声に出すなり 

 がばと平伏(ひれふ)す亀之助の眼前

へ杯を滑らせた男は

「高治(たかはる)だ 」

 十四郎へ眼を向け様一気に杯を飲み

干し

「亀 御前が飲らぬと此奴(こやつ)も飲

らぬ 早う面を上げよ 」

「ははああっ 」

 面を上げた亀之助は 杯を取り様ごく

りと喉を鳴らし

十四郎の喉も其れに続く

⦅ … … たっ 高治 … … 

 … … こっ 此の御方が … … ⦆

「俺が注ぐのは此れのみぞ

 後は奴らに任せる 入れ 」

 開いたままの襖から若い男が三人

 軟錦(ぜんきん)の手前に膝を揃えた

「先ずは挨拶だ 松っ 」

「はっ 一番組の金子切松でございます 」

 背高く 色浅黒く 眉の太い若者が声静か

に宣い

「万(まん)っ 」

「はっ 二番組の阿部万切丸でございます 」

 細い目の万切丸が続き

「虎(とら) 」

「はっ 三番組の古藤(ふるふじきりとら)で

ございます 」

 声にしつつ頭を垂れ 共に垂れた赤毛の髪

がゆらと揺れる

「亀之助 」

「はっ 」

「御前の望み通り 

 今より此の者らを 俺と十四郎の継(つな)

ぎ役とする 良いな 」

「はっ では 新たな編成表は受理為されま

したので 」

「うむ 御上への上奏は明日だがな

 此奴らが 十四郎の顔を見たいと言うので

連れて来た 松 万 虎 此れから忙しく成

るぞ 」

「はっ 」

 若いが 誠意ある声が響き

「 … おっ 御初に御目に掛かり

 真に恐悦至極にございます … 

 なっ 成れど 真逆(まさか)此の様な時に

此の様な場所で御目に掛かるなど 思うても

居らぬ事で ー ー 

「十四郎 」

「はっ 」

「此の様な時だからこそ

 此の様な場所で御目に掛けたのだ

 のう 亀之助 」

「はっ」

 声にしつつ 高治の後ろに控える松へ向け

⦅何故(なにゆえ) 先に継ぎに来ぬ ⦆

 怒りの眼を向けるも

⦅真は 俺が会うて見たかったのだ ⦆

 高治が笑顔の眼で返す

「御館様 」

「高治で良い 」

「はっ 高治様 … 其れで … 」

「何処の何奴の事か 」

「はっ 」

「其奴はな 独国はアドルフ城の城主

 ヒードラーと申す男よ 」

「 どっ独国 」

「其うだ 」

「独国の一城主が何故 」

「何故とな … ふっ 会う機会があれば

奴に直に問うてみるがな 現在(いま)の処

真の事は判らぬ 」

「わっ 判らぬと 」

「無論 大凡の見当は付いて居る … 

 付いては居るが …

 其れが真であるならば 正気とは思えぬ 」

 高治は ごくりと喉を潤し

「事の発端はある昔話しよ 」

「 昔話し … 」

「応よ 家伝と申すどの家にも伝わるいと怪

しげな物語りの事よ 」

⦅ … 家伝 … ⦆

「長う成るが 聞くか 」

「もっ 勿論でござる 是非お聞かせを 」

「突っ込み処 満載ぞ 」

「家伝とは其の様なものと 」

「うむ 耳の穴を掻っ穿って(かっぽじって)

良く聞け … … …

 昔も昔 気の遠退く程の昔の事よ 

     … … … 

 

 

                 つづく   のさ