お知らせ
鉄:てつ …
鎌倉は 由井ケ浜を含めた三浜は勿論
金沢村に極楽寺の金山其の側を流れる針川(極楽寺川)や音無川など鉄 主に砂鉄
の産地として名は知れて居り 鍛冶ケ谷や上郷深田の鑪場(たたらば)に十二所の
鑪ケ谷(たたらがやつ)など鉄器の製造は古来から盛んに行われて居た様でござい
ます 故に今回は鉄 の字についての一考を
鉄は別字で鐵とも書きますが 順番に分解して行きます
金は 「キン」銅の塊などを鋳込む事を言い後に
金属の総称と成るのでございます
失は 「シツ」祝禱(しゅくとう:神官を通じて神に祈る事)して魂が自らの肉体の
外に出る状態 忘我 恍惚の意で己を失う様を表し
鐵の旁は「テツ」又は「黒」の意なのですが 此方も分解致します
戈は 「カ」と音し「ホコ」の形で其の意
武器であると共に聖器でもあるのでございます
才は 「サイ」戈の上の部分なのですが 祝詞(のりと)を入れる器の事で 戈に
才を加えた形が神聖の榜示(皆に知らしめる掲示版の事)と言い 以って
其の地を祓い清める意があるのでございます
呈は 「テイ」と音し勧める差し上げるの意があり 祝禱の器を捧げ神に祈る形
つまり鉄 鐵とは黒く堅い金属で造った戈(ホコ)に 祝禱の器才(サイ)を
加えて神に捧げ 意識を失う迄祈り其の地を祓い清める事の意 なので
ございます 敵に勝ち新たに奪い取った地又は奪い取られた地を奪還し
た際 倒した敵の屍で京(ケイ)を造り王を迎える可く 王が足を踏み入
れる前に祓い清める事を言うのでございます
やはり 祟りが怖いのでござりましょうや ですが其れは又別のお話し
別のお話し其の壱
祓い清め 不思議な事に彼らの怖れる祟りとは 殺した敵の怨霊などでは無い
のでございます
亡骸を積み重ね土で封じて京(ケイ)を建てる彼らなのです 其れは
納得なのですが では彼らが怖れて居る祟りとは一体何であろうか
其の時代彼の地では犬の血に牲血の意があるとの事 犬を犠牲にす
る事で邪悪を祓うもの 其して祟りの祟(スイ)とは真は毛深い獣の
事なのであり察するに其の姿形から古代犬種のチャウチャウなので
はと思われるのでございます
祟(スイ)には祟偏に旁を又と書いて(セイ)と読み 毛深い呪獣を殴
(う)って呪詛を祓う一見非合理と想われる物に 理解と情が結び付
き共感として成り立つ共感呪術を意味する字があり 犬を殴ち殺し
て迄其の血を捧げ祓い清めねば成らぬものとは …
其れは顚死者(てんししゃ) 行き倒れた者達の魂なのでございます
当時彼の地の方々には 行き倒れの亡骸は激しい怨念を持つものな
のだとして恐れられ 其の怒りを和らげる為に亡骸を丁重に塡(う)
める事で其の者達の行き場の無い御霊を鎮めたのでございます
出ると示すの祟の字を 神の意が い出る事により示される と解
しては成らぬ事なのでございます
別のお話し其の弐
たたら 「たたら」には鑪 蹈鞴 踏鞴 多々羅 多田羅 多々良 と同じ読
みが 「やたら」と多いのですが … 元い
鑪 蹈鞴 踏鞴 は製鉄の「たたら」
多々羅は広く 多田羅は水に関わりがあるやはり広い土地で何れも
羅(あみ)で以って鳥を捕まえる意 其して多々良は望みなのか良き
事が多い地を言うのでございます
では製鉄の「たたら」には 如何なる意味が隠れて居るのでしょう
あの時代 鉄器は青銅器を凌駕し世界を変えたのでございます 其
れは此の島国でも同じなのですが 独自に進化した此の「たたら」
から産み出される鋼(はがね)は其の多くが人を殺す刃物に姿を変え
るのでございます 此の島国の祟りは彼の地のあの当時の祟りとは
違い 神霊や死霊などの行為の報いとして受ける厄災が祟りと恐れ
て居たのでございます つまり 死霊と祟りとは同じく呪霊足り得
るもの 鋼の造り手は巡り巡って被るやも知れぬ厄災に恐怖し恐れ
慄いて居たのでございます 其して其の恐怖少しでも取り除き心の
安定図る可く作業場の呼び名を祟り祟るの未然形
“たたら” としたのでございます
別のお話し其の参
多々良 多々良は製鉄場では との御指摘がございましたので
確かに多々良には 足がもつれる又はつまづく様がふいごを足で踏
む姿と似ているから 其う呼ばれて居るのだと云われて居りますが
足がもつれる又はつまづく様は不吉な事なのでございます
製鉄の作業場は危険な場 何時事故が起きても可怪しく無い場なの
でございます 危険や事故は不吉な事 不吉で有るが故に其の場を
多々良 良き事多い場 にしたいのでございます
怪我や病も祟りであると信ずる此の時代 祟り祟るを祟らないにし
たいのが心情でございましょう
故に「たたら」とは祟り祟るの未然形の
“たたら” に行き着くのでございます