お知らせ

2021 / 05 / 24  10:20

毛抜型蕨手刀:けぬきがたわらびてとう … 

毛抜型蕨手刀:けぬきがたわらびてとう …

昔 某家の蔵に在った御刀でございます

其の家の婆様が申しますには御刀の名は

蝦夷の鉄断ちの御刀 : えみしのかねだちのおかたな

と 元は後ニ振り在りそれぞれの名は

蝦夷の水断ちの御刀 : えみしのみずだちのおかたな

蝦夷の火断ちの御刀 : えみしのひだちのおかたな

なのだと

何故飾らずに蔵に仕舞って措くのかと問うたところ

我が家の家宝刀なのだが 元は御神刀と呼んで居り三振り揃って

此其の御神刀故 蔵に仕舞って居るのだと

鞘は夏鹿の毛皮で 反りの無い刃は巾広く角度の付いた柄は

毛抜きの様に中が抜けて居り 柄頭は蕨の如く渦が巻き何とも

見慣れぬ御刀に 暫しじっくり眺めて居たのでございます 

婆様が申しますには

『 日本刀の始まりだんでい 』 と

『 おらの御先祖様 此いで阿弖流為(アテルイ)様と一緒に

坂上田村麻呂と戦ったおんでい 』 と

阿弖流為様と共に戦ったのかどうかは扠措き 

『 日本刀の始まりだんでい 』は

ほぼ当たりなのですが  其の流れをば御紹介致します

初手は

蕨手刀    から始まり より斬撃に強く手首への衝撃は弱い

毛抜型蕨手刀 ヘ 其してより実戦向きに柄頭の蕨の飾りを廃し

毛抜形刀   ヘ 其の毛抜形刀を長大化させた物が

毛抜形太刀  と成り

日本刀    へと変遷を遂げて行くのでございます 

婆様の御話しはまだ続き

『 鎌倉が攻めで来たどきだんば 当時の主様が三振り背負って

むがえうぢ てぎをばったばったと斬り斃したばって はぢ人斬

れば曲がるおんだどよ 三振り目ではぢ人斬ったあど 九人目さ

めがげで曲がったおがだな振り上げだ其のとぎだどや なしてだ

がわがらねけども鎌倉は鎌倉でも別の鎌倉が助けでくれだのだど 

当時の主様 恩に感じだんだべな 

みんなへで鎌倉さ行ったおんだどよ … 』 

鎌倉に着いて 曲がった御刀を鎌倉の砂鉄で打ち直して頂いて後

色々有って 数百年の時を越えて婆様の嫁ぎ先の某家に戻って

来たのだ其うでございます 婆様も既に亡くなり蔵も無くなった

某家も人手に渡って居りますので もう御目に掛かる事も無いの

ですが 西條八十ふうにお伝えしますれば

「 婆様 あの御刀 どうしたでしょうね

  ええ 夏 蔵から出して見せてもらったあの御刀ですよ 」

なのでございます

 

❂ みんなへで は 皆んな連れて の意でございます