お知らせ

2023 / 07 / 21  20:31

お暑うございます … 其の五

お暑うございます … 其の五

鮨売り

 手拭いを吉原かぶりにして、粋な物綺麗な拵えの売り子が

「 すしや~こはだのす―し 」

と言ってやって来る。

船の形をした菓子折りのしっかりした様な物を積み重ねて、此れを肩に乗せて

草履掛けか何んかで いゝ声で売りに来るのである 

此の仕出し寿司、大きな問屋が沢山拵えて売り子へ渡すのであるが、船一つに

廿四(にじゅうよん)詰って居て、値はたったの百文(一銭)、一つ四文という安いも

のである。

船の上には桃色の布巾がぱらりとかゝって居た。当時まぐろも、もとよりあった

が、寿司の代表はこはだ、此れが一番となって居たので

「 寿司や~こはだの寿―司 」

とふれた。

こはだと言う魚は、あのまゝ食べてはつまらないものだが、寿司にすると馬鹿に

旨く成る

              ( 彫刻家 高村光雲翁の話「四谷馬方蕎麦」

                       子母沢寛「味覚極楽」所収 )